【連載】ロシアの実像を探る(12)北方領土問題の行方(完)

   

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ロシアが「戦勝国の戦利品」と主張する理由

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こうした自陣営側の国際法的な問題点をロシアも熟知しているはずです。ですから特に最近は戦勝国の戦利品と言う表現を頻りに持ち出してきます。勝った側が敗者から領土を取るのは当然だと言わんばかりです。しかし、これはロシアとしては勇み足だったのかも知れません。

 

ソ連も領土不拡大の原則を謳った大西洋憲章に参加していたのだから、勝者への領土割譲を主張するのは二枚舌ではないか、という批判を措くとしても、そうした戦勝国の権利となると、では欧州戦線でドイツを打ち破った後に東欧諸国を事実上自国の支配下に置いたスターリンの政策まで肯定されるのか、という問題に連なってしまいます。

 

東欧諸国にはポーランドを始めとして戦勝国・ソ連の支配の歴史に対して今でも強い嫌悪感を抱いている国が多々です。その神経を逆なでするような議論でしょう。ヤルタ協定の当事国である米国ですら、2005年に当時のブッシュ大統領がバルト諸国の一つであるラトヴィアを訪問した際に、この協定を「史上最大の過ちの一つ」と演説の中で批判しました(そのまま協定無効論にでも進んでくれたならロシアの立場も揺らいだのかも知れませんが、流石にそこまでは無理だったようです)。

 

平たく言えば、戦勝という美名の下でも、それに伴うロシア(旧ソ連)の不正義を認める訳にはいかない、ということです。それでも以前であれば、特に対欧関係での余計な摩擦を起こさないためにも、戦利品と言った露骨な言葉をロシアは避けたかも知れません。しかし、対欧でも対米でも関係が既にかなり悪化してしまっている現状では、最早どう受け止められようとも結果は同じ、といった気持ちに陥っているようにも見えます。

 

加えて対米関係の悪化が、日本との領土問題交渉でロシアの態度を硬化させてしまっていることも周知の事実です。その昔に返還を約束した領土に関わる話であっても、今となっては軍事戦略上で自国に不利な動きを簡単にとる訳にはいきません。日露間の問題は、米露問題の従属変数ともいえる立場に置かれてしまったことになります。

 

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日ロ交渉はどうなっていくのか

首相官邸Twitterより

 

こうした中で、安倍政権は何とか平和条約締結にこぎ着けようと頑張っています。一方で、政府の否定にも拘わらず日本のメディアでは、政府が既に国後・択捉を諦め、歯舞・色丹2島の返還(条約上は「引き渡し」)だけで手を打つのではないか、との見方が広まっています。昨今の世論調査では、2島返還先行論が最も多くの支持を集めているようで、諦めるかどうかを曖昧にしたまま、国後・択捉抜きの交渉で進んで平和条約締結というシナリオが最も現実的な話として語られているようです。

 

米露関係を考えれば、今の処それが見通せる中では最大限可能な結果なのかも知れません。しかし、仮に歯舞・色丹の2島返還しか確認されず、国後・択捉の返還は全く見通し立たずとなるなら、日本人の対露感情は今よりもさらにもっと悪化するという可能性もあるのではないでしょうか。

 

少し表現のニュアンスは異なりますが、ロシアの専門家の中にも、「平和条約を締結したら日本はロシアとの経済関係に興味を失うのではないか」という懸念を漏らす向きがいます。日本人の反応をそれなりに予測しているからでしょう。

 

そうなると、日本人の対露感情の大幅好転が無理だとして、せめて現状より悪くはならない結果に持ち込むには、皮肉なことにこの領土問題への無関心層(2島か4島か、もうどうでもいい)を増やしていくしか無いのかもしれません。何やら敗北主義の匂いがする、あまり気持ちの良くない予測ですが、それだけ日露の領土問題とは最適解の割り出しが難しいということなのです。

 

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今回でこの連載も終了とさせて頂きます。内容には不十分な面も多々有ったかと思いますが、1年ほどの間お付き合いを頂いた読者の皆様には、厚く御礼を申し上げる次第です。

茅野 渉(Chino Wataru)

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https://www.levada.ru/2016/04/07/mezhdunarodnye-otnosheniya-2/

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