「一帯一路の課題」[東北文化学園大・王教授]

   

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(Wikipedia)

「一帯一路の課題」

2013年に提唱された、巨大経済圏構想である「一帯一路」。

提唱から5年が経つ今、「一帯一路」っはどのように評価されるか。また、課題はどのようなものがあるか。

東北文化学園大学で中国政治について研究している王元(おう げん)教授に話を聞いた。

 

1.概念や定義の変化

「一帯一路」は、シルクロード経済ベルトと21世紀海洋シルクロードを合わせたもので、2014年11月10日に北京市で開催されたアジア太平洋経済協力首脳会議において、習近平国家主席が提唱した経済圏構想である。古くからあった大陸の東西を繋ぐ(貫通する)という「人類の夢」の現代版とも言える。構想そのものは2012年以前からあり、習近平政権の目玉プロジェクトとして格上げ、実施を推進したものである。

「一帯一路」の定義については、提唱してから大きく変わったというよりも、元々「一帯一路」提唱以前にも似たような構想があり、この構想が2013年頃から大きく変わったと言える。さらに、推奨する上で大きく変わった点もある。

古くから似たような構想として、シベリア鉄道が挙げられる。これは120年ほど前から始まった欧州とアジアを繋ぐ大きなプロジェクトで、提唱した当時は、中国東北部を経て朝鮮半島や日本までを繋ぐ計画であった。

(Wikipedia)

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2012年まで中国が望んでいたのはこのような大陸の東西を結ぶもので、海上など南の方は元々計画になかった。

このように、北部など大陸部分に関しては、既に古代のシルクロードがあり、その沿線地域を開発することとなった。一方、海上など南部に関しては、明代の大航海で鄭和が訪れた中国へのルートなどを参考にしたものを、中国が「海上シルクロード」と呼ぶようになり、これを大陸のシルクロードと合わせて「一帯一路」としたという流れである。

元々は前述のように、陸上中心で進める計画であったが、国際社会での中国の台頭があり、範囲を広げ、海上にも自然と目を向けるようになったのである。実際、2013年以降の中国の投資先を見たところ、南への投資が集中しており、北より南の方がプロジェクトは進んでいる。

「一帯一路」は政府が中心となって中央アジアやロシアなど様々な国や地域と共同で行うプロジェクトだが、南の海域では政府だけでなく、企業も自由に参加しやすく、さらに、北など大陸部ではルートに従って一歩ずつ進めていかなければならないが、南など海上ではどこからでも始められ、国や地域の問題で投資が難しい場所は避けることができるため、自然と南への投資が増えたのだろう。

(出典:https://www.statista.com/chart/16075/the-share-of-bri-investment-destinations-for-
state-owned-enterprises/)

しかし、国と国の関係が中心となって進めている北部は、規律が守られた状態でプロジェクトを推進することができている一方、南部はプロジェクトが非常に多岐に渡っており、自由度が高すぎるため、どこかで失敗したとしてもおかしくなく、それを想定する必要があるだろう。

今後の「一帯一路」は日米が打ち出した「インド太平洋戦略」を競争する形になるが、基本的には先行した「一帯一路」が有利な形で展開されるだろうと見ている。東南アジアからの支持獲得に自信があることと、「インド太平洋戦略」は具体的なことが決まっておらず、実施されるかどうか不明瞭であり、そうしている間に中国との差が開いていき、「一帯一路」の一部分になってしまう可能性があるためである。「インド太平洋戦略」がカバーするインド洋と太平洋西部の海上では、今まで既に色々やってきたため、違う何かを求められるであろうし、特に大陸内部について、現在は計画なしの状態である。

 

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2.「一帯一路」を進める中心組織とその変化

2013年9月、習近平国家主席は「一帯一路」構想を正式に提唱し、2014年11月に行われたAPEC首脳会議での発表により、国際的に認可された。その後、2015年2月、張高麗国務院総理(当時)を中心に一帯一路建設工作指導小組弁公室が組織された。当時と現在の成員を比較すると、中央政策研究室所属の者がいなくなり、新たに発展改革委員会所属の者が加わったことから、政策・外交から、経済発展・外交への転換がなされ、「一帯一路」が政策研究ではなく、実施の段階にあることが分かる。

さらに、2016年3月には、「一帯一路」が第13次5カ年計画の主要目標任務と重要措置とされ、国外で推進するだけでなく中国国内経済と一体化していくこととなり、この年から「一帯一路」は正式に全面的に展開されていたと考えてよいだろう。

 

3.債務のワナなどの批判

私も当初は、各方面で報道されているように大変な問題であると考えていたが、様々な情報から分析したところ、実際はそれほどひどいものではないという印象を受けた。というのも、中国の対外投資、特に「一帯一路」を名目にしたものに関しては、正式な数字はまだ発表されておらず、「債務のワナ」を主張する組織や研究者が根拠としているのは米国シンクタンクの推計に基づいたものであるからだ。

実際に米国シンクタンク「AⅰdData」のデータベースは過大推計している。案件ごとにプレスリリースやメディアの放送を集計し、中国の対外援助に関する独自のデータベースを構築したうえで、その分析結果を発表しており、正確性に欠ける報道等の二次情報を集計しているため、二重計上や三重計上が生じている。したがって、実際の数字としては、報道されているものの3分の1程度と考えるのが妥当であり、「債務のワナ」と言われているものは見直す必要があるのではないか。

「債務のワナ」の具体例として、モルディブやラオスが挙げられるが、いずれも実際の対中債務は報道されている値の4分の1であったことが分かった。おそらく記事がコピーされる中で伝言ゲームのような形で数字が膨らんでいるのだろう。ジブチに関しても、諸外国からかなりの借金をしていることが問題になっており、中国が進出した2016年以前のジブチの借金に関しても中国の進出が原因であるとされ、中国以前にジブチ進出した米国や日本と比べて不公平であるように思える。

しかし、「債務のワナ」という指摘が全く当たっていないわけではなく、軽視すべきでない問題ではある。小国は債務危機に対する抵抗力が大国と比較して弱く、債務超過で倒れてしまうことも考えられるため、中国はその部分も配慮しなければならない。また、債務の他に中国が特に気を付けなければならない問題としてマレーシアやスリランカのような相手国国内での権力闘争がある。

このほか、経済開発における中国国内のやり方を他国に適用するときに、うまく適応させることができるかどうかという危惧がある。こうした中で、「一帯一路」に対する批判の一つとして、プロジェクトを進める際、現地での労働者雇用を行わないことが挙げられる。この批判は「一帯一路」構想提唱以前からあったもので、中国はおそらく全部やめるつもりはないだろう。理由としては、経済的利益ももちろんあるだろうが、実際これまで日本や米国などが行う行うODAのいくつかのプロジェクトが失敗してきた要因として、中国が経済中心で行うのに比べて、日米は付加的条件が多いため、法律や雇用など双方で意見が衝突する部分が多いためにコントロールが難しくなり、効率が悪くなるということがあり、中国は自らの方法が最も効率が良いと考えているためである。

実際、中国は国内でも同じやり方で進めることができたという自負がある。地方で大規模なインフラ工事を行う際も、現地で労働者を採用することは基本的になく、建設部隊、いわゆる「兵団」と呼ばれるものを組織し、工事終了後は兵団ごと次の地域に移動するという風に全工事をこのような建設兵団に任せることになるため工期も質も守られ、さらに、余計な問題を発生させない効率よい方法を採っているのである。中国のコストパフォーマンスが優れている秘訣はここにある。

「一帯一路」には様々な課題が指摘されるが、その概念や内容はプロジェクトを進める中で変化を遂げている部分も多く、今後の行方に注目していきたい。

 

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