【ロシア極東と日本】第3回 北方領土の「地元」から

   

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地元の声と国境をまたぐ歴史学

サハリン州郷土博物館(旧樺太庁博物館、ユジノサハリンスク市):筆者撮影

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だから、北方領土問題に対する姿勢、「地元」の一部が切り取られる可能性が高まる雰囲気に対する対応も多様である。もちろん、たとえ1島であれ、その引き渡しには反対だという声が強いのは確かである。日ごろ冷静な議論をするある研究者が、そうした強い姿勢を示したのには少し驚いた。

だが、状況を慎重に見守り、一歩ずつでも閉ざされた国境を開いていきながら、日露関係にとって最善の道をじっくり切り開いていくべきだ、という良心的な意見を述べるサハリン市民が一定数いることは強調しておきたい。

クリル諸島に大学はなく、サハリン州の高等教育や研究機関はユジノサハリンスクに集中している。サハリンの歴史研究の水準は高い。1980年代後半にペレストロイカがはじまり、ソ連社会に変革の空気が訪れると、サハリンの歴史家たちは他に先駆けていち早く地元の歴史像の刷新に乗り出した。ロシア国内の地方史はソ連崩壊後に各地で急速に盛んになったが、サハリンは間違いなくそのトップランナーだった。

現在彼らは、クリル諸島の歴史の全体像を描く大著の編さんに着手している。それは、ソ連時代のように彼らに一方的に都合のよい歴史像ではない。サハリン島同様、日露の国境が交わり、多様な文化が育んできた歴史をきちんと見つめようとしている。

そして実は、筆者を含む日本の研究者も執筆に加わる。歴史学はすでに国境をまたいでいる。このような着実な交流の積み重ねが、閉ざされたボーダーに穴をうがっていくはずだ。

 

天野 尚樹(あまの なおき)

山形大学人文社会科学部准教授、博士(学術)。専門はロシア極東近現代史、北東アジア境界政治史。著書に『日露戦争とサハリン島』(共著、北海道大学出版会)、『帝国日本の移動と動員』(共著、大阪大学出版会)、『樺太40年の歴史』(共編著、一般社団法人全国樺太連盟)などがある。

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https://www.levada.ru/2016/04/07/mezhdunarodnye-otnosheniya-2/

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