産業循環論から見た一帯一路の課題[東北学院大・楊教授]

   

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「産業循環論から見た一帯一路の課題」

2013年に提唱された、巨大経済圏構想である「一帯一路」。

提唱から5年が経つ今、「一帯一路」っはどのように評価されるか。また、課題はどのようなものがあるか。

東北学院大学で中国経済について研究している楊世英(よう せいえい)教授に話を聞いた。

 

産業循環論とは

私は、「一帯一路」を産業循環論から考察している。産業循環論とは、1次産業から2次産業、3次産業への流れが上手くつながるようにすれば社会が循環し、循環は生産、再生産する中で行われ、このバランスが崩れると社会が成り立たなくなるというものである。

具体的には、中国国内で製造業の比重が上昇し、過剰供給が問題となる中で、産業構造の転換、すなわち高度化をどのように図るか、また、転換により「一帯一路」が成功するかどうか、産業循環論が中国に当てはまるのかどうかについて注目している。

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「一帯一路」はシルクロード構想と21世紀海上シルクロードが合体したもの

2013年9月に習近平国家主席がカザフスタンのナザルバエフ大学での演説で「シルクロード構想」を提起し、翌月、「21世紀海上シルクロード構想」を提起、同年12月には中国中央経済工作会議で「シルクロード経済帯」プロジェクトが正式に決定された。

シルクロード構想と21世紀海上シルクロードが合体したものがシルクロード経済帯、すなわち「一帯一路」である。昔からあるシルクロード構想はEU、欧州中心であったが、現在はアジア・太平洋も含めて一体化を図ることを目的としている。

中国が「一帯一路」を進める背景

中国が進める「一帯一路」には、現在中国国内で生産過剰となっているインフラを輸出するとともに、中国の改革モデルを世界へ輸出し、アピールしたいという思惑が背景にある。「一帯一路」が大型インフラ輸出公共事業と呼ばれるのはそのためだ。

中国が「一帯一路」を進める背景には、この思惑の他にも中国が抱える問題が関係している。

中国は改革開放以来、上海を中心に経済特区を作り、成功した一方、東北部や中部、国境付近では発展が遅れている。中国はこれまで国内発展のため多額の投資をしてきたが、地域による貧富の差は広がるばかりであり、中国の改革モデルには限界があることを指摘する研究者もいる。現に中国国内では持続的な高度成長やGDPの数値に目を向けすぎて社会構造やインフラ整備が十分にできていない。

こうした現状を受け、中国は次のモデルへ転換、すなわち、国際貿易モデルを目指そうとしている。生産過剰となっているものを海外へ輸出することで、就業機会の創出、所得拡大へつながり、格差是正を目指そうとしているのである。

さらに、海外から市場の運営ノウハウを学び、人民元での決済も考えている。

中国の現状

実際、中国の数字を見てみると、1995年から現在までジニ係数はそれほど改善されず、警戒ラインの0.45を超えており、貧富の格差は深刻化しているのが分かる。都市部の失業数は特に深刻であり、中国社会を維持するためにはこの数値を改善しなければならない。また、貧困人口は減少しているものの、相対貧困人口は増加しており、これは格差が広がったことを意味する。このような相対貧困人口や失業者数の増加により、現在では毎年約1億人の就業機会創出を行わなければならなくなっている。

(楊教授提供)

 

また、中国の製造業の供給能力について、国内総生産は1978年から2014年まで毎年7%前後で増加し、製造業の増加値はおよそ国内総生産と比例している。製造業の増加値と国内総生産の相関関数は0.98であり、中国にとって製造業が核となっているのが分かる。

(楊教授提供)

 

さらに、工業品の輸出から見れば、輸出額と完成品は相関しており、輸出額の9割以上は完成品であることからも、中国の製造能力がかなり高いことが分かる。しかし、製造能力が向上しすぎた結果、モノが余り続けると、産業循環論から言えば、この改革モデルは上手くいかなくなるため、中国改革モデルの輸出よりもモノを輸出し、相手国と握手をしながら相手国のインフラ整備を行うという考え方で進めたほうが良いだろう。

(楊教授提供)

 

このほか、1990年代の世界金融危機の教訓から実体経済への投資が増加し、先進国のポスト工業化が進む中で、中国がモノの輸出を積極的に行ったことや、保護主義の台頭により中国にとってチャンスがどんどん広がっていった。

以上のことに鑑みるに、中国が「一帯一路」を進めたい一番の理由は、中国国内での産能過剰、生産能力過剰である。その解決策として、中国改革モデルを輸出することで供給を提供し、公共事業、社会インフラによって需要を生み出し、就業機会を創出、結果として中国経済の活性化を図ろうとしているのである。

このように「一帯一路」を進めることで中国にとっては、中国社会を国際化していくための勉強の機会になること、「中国製造2025」の進展につながること、多国間貿易が促進され関税減少につながること、貧富の格差解消、世界に占めるGDPを維持できること、産業構造の高度化、就業機会の創出などのメリットがあるだろう。

「一帯一路」の課題

中国が目標とする産業高度化のロードマップが「中国製造2025」であり、中国は世界の工場から世界の製造センターを目指している。その上で課題があり、その一つに効果の試算がある。中国はこの5年間でかなりの投資をし、就業機会創出や、相手国へのGDP貢献度80%など青写真は掲げているが、あくまでも目標に過ぎないため、経済学に基づいた、より具体的なシミュレーションを行った上で試算をする必要があるだろう。


 

中国国内での過剰生産を解消するために始められた一帯一路。中国モデルの輸出により、国内での格差是正は進むのか、中国が想定するような中国へのメリットは実現されるのか、今後もその動向を見ていく必要がある。

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